近年、世界ではユニバーサル社会の実現に向けたさまざまな取り組みが行なわれている。国内でも施設のバリアフリー化やエレベーターの設置など国や地域での動きが活発化している。
ノーマライゼーションの普及によって株式会社INBプランニングが開発した高齢者・視覚障がい者向け歩行者補助信号機「i-signal」は、こうした社会の動きを促進させるものとして期待されている。
そこで三輪佳永氏(日本ブラインドテニス連盟理事)と、落合啓士氏(ブラインドサッカー日本代表)に直接「i-signal」に触れてもらい、その効能を検証した。
司会進行役を障害者スポーツにも精通している二宮清純氏が務め、利用者の視点から「i-signal」の可能性を探った。
落合啓士(おちあい・ひろし)
1977年8月2日、神奈川県横浜市生まれ。小学校高学年の時に「網膜色素変性症」にかかる。夜盲、色盲と徐々に病が進行し、19歳で視力を失う。2003年よりブラインドサッカーを始め、日本代表としてアジア大会や世界選手権大会など数々の世界の舞台を踏む。
三輪佳永(みわ・よしなが)
1973年4月2日、愛知県安城市生まれ。先天性無虹彩症。父親の影響で30歳からブラインドテニスを始める。ブラインドテニス(弱視クラス)の普及活動の一環として今年5月に「エンジョイテニスクラブ」を創設した。現在、日本ブラインドテニス連盟理事を務めている。
二宮: 韓国・大邱で行なわれた陸上の世界選手権ではハンマー投げの室伏広治選手が金メダルを獲得し、来年のロンドンオリンピックの代表に内定しました。また、W杯で初優勝し、今や国民的人気を誇る「なでしこジャパン」も予選突破を果たすなど、現在、スポーツ界ではオリンピック・パラリンピックに向けた動きが活発になっています。落合さんが日本代表を務めるブラインドサッカーも12月には仙台市でパラリンピックの予選を兼ねたアジア選手権が行なわれますね。
落合: はい。ブラインドサッカーがパラリンピックの正式種目になったのは2004年のアテネ大会からなのですが、日本はアテネ、北京と出場していません。ですから、ロンドンではぜひ、初出場を果たしたいと思っています。
二宮: ブラインドサッカーのルールはフットサルと同じと考えていいのでしょうか?
落合: ほとんどそうですね。サッカーボールに鉛が入っていて、音が鳴るようになっているのが一番の特徴だと思います。それから5対5というのはフットサルと同じですが、キーパーが晴眼者で、フィールドの4人が視覚障がい者という構成になっています。私たちが行なっている全盲と光覚クラスのB1と、弱視クラスのB2、B3があり、B1ではフィールドプレーヤー4人はアイマスクをしなければいけません。それと、ブラインドサッカーならではのルールとして、DFがボールを取りにいく場合は必ず「Voy」(ボイ)というスペイン語で「行くぞ」という意味の言葉を発するんです。
二宮: ゴールの位置はどうやって判断するのですか?
落合: 相手ゴール裏からFWの選手にゴールまでの距離や角度を伝えるコーラーが、「右の45度、10メートル!」などと叫んでくれるんです。それでボールをコントロールしてシュートを打ちます。
二宮: 落合さんは03年からブラインドサッカーを始めて、これまで日本代表としてどのくらい世界の舞台を経験されてきたのでしょうか?
落合: 03年のアジア大会から始まって7回ですね。一番いい成績を挙げたのは06年にアルゼンチンで行なわれた世界選手権での7位です。
二宮: ブラインドサッカーではどの国が強いのですか?
落合: 一般のサッカーとほとんど同じです。ブラジルがダントツトップで、南米では他にアルゼンチンやパラグアイ、コロンビア。一方、ヨーロッパではスペイン、フランス、イングランド、ドイツが強いです。
二宮: アジアでは?
落合: 中国と韓国、それにイランが急激に力をつけてきています。しかも中国とイランは世界でもトップ5に入るくらいの実力をつけてきているんです。中国は08年の北京パラリンピックでは銀メダルでしたし、昨年の世界選手権では銅メダルを獲得してロンドンパラリンピックの出場権を得ています。
二宮: 残る枠は一つということで、アジア選手権は厳しい戦いになりますね。しかし、日本はホームという有利性もありますから、ぜひ頑張ってください。
落合: はい、ありがとうございます。「なでしこジャパン」に続きたいと思っています!